僕らのアラブ競馬を守って!
Please save our anglo-arab horse-racing!


 最近、競馬ファンになられた方には、ご存知ないかも知れませんが、日本では軽種馬による平地及び障害競走と、重種馬による挽曳(ばんえい)競走とが存在しています。特に後者は、日本でしか行われていません。
 その中で軽種馬による競走(我々がごく普通に「競馬」と呼ぶもの)には、いわゆるサラブレッドの他にアングロアラブと呼ばれる品種が、走っています。
 このアングロアラブ(以下、単にアラブと表現する)とは、直訳的に表現しますと、イギリスとアラブの混合という意味合いになりますが、ここではアラビア半島原産種にサラブレッドを交配させた混合種で、アラブ血量が25%以上の馬を指します。
 一般にアラブは、サラブレッドよりもスピードに劣りますが、その代わり、従順でタフという点で勝っていると云われています。その利点から、昭和初期あたり(端的に云えば、日露戦争の後)から、軍部の号令の下、我が国でアラブ競馬と呼ばれるものが、始まったのです。
 しかし、日本は、第2次世界大戦における東アジア戦線で、アメリカ合衆国他連合国に決定的な敗北して以降、アラブ競馬の存在意義は、無くなりました。それでも戦後間も無くは馬資源の不足から、高度成長期に入っても先に述べた利点から、それなり需要があったのです。ところが、時代は平成に移ったころから状況に変化が現れます。JRAが1995年限りで廃止したのを皮切りに、TCK(大井)が1996年を以って完全廃止、大井と日常的に交流している3場(川崎、浦和、船橋)でも風前の灯火となり(現在、数少ないアラブ系競走馬は、サラブレッド系の格付けに編入されて出走している)、栃木(宇都宮+足利)、岩手(盛岡+水沢)でも近いうちの廃止は、決定的となりました。さらに「アラブのメッカ」と呼ばれている兵庫(園田+姫路)でも1999年6月よりサラブレッドが導入され、必然的にアラブ系のレースは縮小されつつあります(実際、今年度から「園田ジュニアカップ」が、サラ系競走にレギュレーション変更)。
 廃止の理由としては、主催者側は「ファンの支持が得られない」というのを挙げますが、それ以上に昭和40年代に「テンプラ」(アラブと偽ってサラブレッドを交配させて生産された馬)と呼ばれるものが横行したという事実が、ファンの支持云々以前に大きな理由として挙げられるのでは、と考えられます。ひょっとして、その事実を日本の競馬の歴史の表舞台から覆い隠したい、という意思が働いているのでは、と勘繰りたくもなります。
 確かに世界からみた日本の競馬、という視点から考えますと、ある意味において日本のアラブ系競馬のこれまでの有り方は、明らかに異常であります。フランスの南部あたりでは、50%アラブや25%アラブの競走も行われているそうですが、アラブの血統がここまで独自の形に発展してきたのは、おそらく日本だけでしょう。
 しかし、これを以って、アラブ競馬を「日本競馬の犯罪史」とまで表現して、地上から抹殺しようという論理には、僕は少々理解しかねるのです。よく枕詞のように「世界では――」とか「欧米では――」(アメリカとヨーロッパは違うのにね)とか云いますが、特に文化面において、あまりこれを振りかざすのは、正直云っていかがなものか、と感じます。競馬に限らず、昨今、制定が急がれている国旗・国歌法案にしても(おっと話が飛んでしまった)。極端な話、逆にアラブ競馬の面白さを世界に伝えよう、という器量というか気概は持っていないのでしょうか?
 実際にアラブ競馬が完全になくなったら、と思うと正直ゾッとします。「北海道を『首吊り銀座』にするつもりなのか?」と憤りすら感じてしまいます。
 何故かと申しますと、多くの馬産農家は、サラブレッドを育成する一方で、リスク軽減のため、比較的手のかからないアラブで生計を立てているのが、現実なのです。このことが馬主サイドからの需要もそれなりにあることを表していることは云うまでもないでしょう。賞金はサラブレッドよりはるかに安くても、しっかり走って、出走手当(これが結構バカにならない額なのです)を稼いでくれるのですから。
 それが、ただでさえ外国産のサラ系馬の増加し苦しんでいるところへ、アラブ系競走の減少の煽りを食って、生産牧場がバタバタと倒産しています。
 また、これは聞いた話ですが、岩手県競馬では、アラブの近年中の廃止を決定して以降、地元在住の馬主が減っているといいます。「サラブレッドは値段が張るし、リスクも大きい。でもアラブなら――」と考えているタイプの馬主さんが多かった証拠です(実を云うと、私もせめてこういうタイプの馬主さんになりたいな、と考えているのです)。
 アラブ系競馬は邪道であるから、無くすべきである。
 資本主義社会において、力の無い生産者は淘汰されるべきである。
 リスクを恐れるような人間が馬主になんてなるな。
 と指摘される方もいらっしゃるでしょう。それはごもっともです。
 しかし、大げさな物言いかも知れませんが、日本の競馬文化を守る、という観点からも僕はアラブ競馬の復興を願って止みません。
 アラブのレースを残していて、そんなにデメリットは無いでしょうし、先ほど挙げたメリットもまだあるハズなのです。冷酷な物言いになりますが、馬券買っている方にとっては、サラもアラブも変わりないのですから……。

 主役はあくまでもサラブレッド、だけどアラブも走っている――それでいいじゃありませんか。

 (1999.7.18)

 一つ前に戻る