Immigrant Song


 自由の丘の戦いから、既に半年。
 ズーリに設置された「キダ藩再興準備室」は、その動きを一段を活発化させていた。
 いつ、藩主であるラ・カンが帰国するのか、様々な事情から本国に残っていた家臣団との調整が、依然として続いている。
 本国に残った組の一部には、ラ・カンらへの反発を抱いている者も居るのだ。
 
 そんな、ある麗かな昼下がりのこと。
 雷鳴のガラガは、惰眠を貪っていた。
 だが、そんな幸せは長くは続かない。

 部屋を激しくノックする音が響く。

「ガラガ〜?!」

「ちょっと、寝てるの?それとも、まさかとは思うけど――?」
 
 しかし、部屋の主は未だに反応する気配が無い。
 しびれを切らしたノックの主が、合鍵を使って、問答無用で部屋に乱入する。

「うぎゃ!」
 
 それはそれは雑然とした部屋に、一瞬、唖然とするレ・ミィ。

「何よ、これ……」
 
 気を取り直し、ベッドに寝そべる雷鳴のガラガに生命反応を確認すると、レ・ミィは深く息を吸い込んだ。

「コラ〜、ガラガ〜、起きなさ〜い!」

 巨躯を懸命に揺さぶる。
 が、反応が無い。

「真昼間から熟睡かいっ!?」
 
 そのうち、ガラガの体に蹴りが入り始める。

「うなあ」

 まだ夢うつつの狭間にいるガラガは、ここで何を思ったか、ミィの服の袖を引っ張り、引き寄せようとする。

「な、な、何をっ?!」

「ことなあ」

 どうやら、彼は夢の中で、コトナ・エレガンスと甘い新婚生活を送っているようなのである。或いは、起き抜けのガラガは、コトナの甘い囁きの言葉をかけられているつもりらしいのだ。

「まだいいじゃないかあ〜」

 といいながら、唇を尖らせている。

「あと5分〜」

 そんなヤニ下がりきったガラガの寝顔を見ていたレ・ミィの中では、シュゴゴゴゴゴ!という不気味なオノマトペと共に内心のマグマが湧き上がり、そして、ついにキレた。

「こ、こ、こ、このおおおおおおお!!」

 電光石火でガラガの腕を振り解くと、天高く舞い上がる。

「バカッチンッガアアアアア!」

 そして、あっと思った時には、乙女のバカチンガー・エルボードロップが、ガラガのノド元に炸裂していた。

 「ぐげぷ?!」

「いい加減、早く起きろやっ!乙女のキングコング・ニードロップ!」

 そして、続けざまに超獣膝爆弾がガラガの顔面に投下される。

「べぶっ?!」

 一度、火が付いた我らがミィ様の猛攻は止まらない。ガラガに悶絶するヒマすら与えず、身体を太い脚に巻きつけると、踵を捻ってワキに抱え込む。

「乙女のヒールホールド!」

 膝の靭帯をねじり切る恐怖のサブミッションが、ガラガを捕らえて離さない。
 正確には、ガラガとレ・ミィの体格差を考慮すれば、蹴りはがすことも可能ではあるのだが、もはやパニック状態のガラガにしてみれば、それすら考えつかない状況に追い込まれているのだ。

「どおおおおおおおおお!ヒザが、ヒザがあああああ!!!」



「――で、なんだ、この穏やかな昼下がりに?」

 ひとしきりの乱闘(というかミィの折檻)の後、ミィとガラガが向き合う。

「まったく、大事な用があるからと、このミィ様が呼びに来てみれば、この男は惰眠を貪って、ええ、それくらいは、まだ大目に見ますとも。ならば、こちらとしても優しく起こしてあげようと思えば――」

 この期に及んで、コトナコトナ――と言おうとして、ガラガがそれを遮る。

「別にいいだろう、陽気はいいし、ヒマだし、こういう日は、『働いたら負けかな?』って」

「20代も半ばに差し掛かっている男の言うセリフじゃないわね」

 あくまでもミィは、冷静にツッコむ。
 しかし、これは微妙にグサっと来るセリフである。いや、男にとって、同年代以下の女性のこのテの言葉は、かなりダメージは深い。が、それで簡単にヘコまないのが、雷鳴のガラガだったりするのである。

「で、用件を聞こうか」

 故に、次の瞬間には、既に気を取り直している。

「おじ様が呼んでいるのよ。ちょっとディガルドの残党を退治してきてもらいたい、って」

「ちょっとって……随分、簡単に云うよな」

「当然、一人でなんて云わないわよ」

「そりゃそうだろうよ。で、誰とだ?」

「取り敢えず、リンナと」

「おい!」

「イヤなの?」

「イヤとは言わないがな……ほら、向こうの感情というか……」

「ひょっとして、リンナのこと、嫌い?」

 あくまで直球勝負のミィ。基本的にルージ以外が相手の時は、こんな感じなのである。
 計算ずくなのか、そうではないのか、ちょっと上目遣いに、うるうるした瞳で見つめられ、おまけにその指摘が図星とくれば、少々ニブチンのガラガでも動揺する。

「嫌いって、お前、そりゃ、トラフじゃ、イキナリ、あいつに刺されているんだぞ」

「あれは、アンタが悪いんでしょ?」

「だけど、普通、刃物まで持ち出すか?!」

「そりゃま、そうだけど、でもリンナはコトナと双子だから美人でスタイルも良いし、あれはあれで性格はキツいけど、コトナほど歪んではないし……おじ様なりに気も使ってくれているのよ。ここはチャンスだと思って――」

 何気なく、自分のことを棚に上げつつライバルを攻撃しているのは、ご愛嬌か?

「だけどよ、なんていうか、こう、全身から醸し出される色気というか、エロティシズムが感じられないんだよな」

「アンタみたいな筋肉馬鹿からそんな理性的なセリフが聞けるとは思わなかったわ」

 とはいえ、内心ではガラガの云うことも理解できるミィである。いくら育ってきた環境に違いがあったとはいえ、あそこまで性格や物腰、雰囲気が違ってくるものなのか、と思う。

「筋肉馬鹿って、お前なあ〜、この知性派で売ってきた雷鳴のガラガ様に向かって――」

「とにかく、さっさとおじ様のところへ行って来なさい!みんな待っているわよ!」

 ミィにどやされ、おまけにケリまで入れられ、ガラガは駆け足で部屋を飛び出していった。

 しかし、この散らかった部屋ときたら、どうだろうか?

(仕方ないわね……ようし、大サービスよ!少し、片付けてやりますか)

 かくいうレ・ミィ自身も、整理整頓や掃除などは得意な方ではない。身分からしても、ズーリなどにいれば、何かにつけ、お付きの者が居て、身の回りのことをしてくれるし、本人の性格もある。しかし、旅暮らしが長かったせいか、あまり物を持つ生活をしていない故、そもそも部屋が散らかるということが、あまり無いのである。

(独り者の男って、実際は、こんなのばかりなのかしらねえ……?)

 その意味においては、ラ・カンは、非常にマメな性格をしている。ゆえに独身生活を、あの年まで続けることになってしまったのかも知れないが。

 とかなんとか思いつつも、どこからともなく持ってきた清掃用具を使ってレ・ミィが掃除をしていると、部屋の片隅にスケッチブックを発見した。

(ふうん、ガラガの奴、アレで絵なんか描くんだ、意外意外)

 こうなると興味津々の少女は、中身を見ずに居られない。

(ちょっとくらい、大丈夫よね……)

 恐る恐る中身を見てみる、すると――

「!!!!」
 
 そこにはコトナの絵ばかりが、描かれていた。
 しかもそこで描かれている彼女の大多数は、あられのないポーズをしているのである。
 
「う!」

 それだけではない、ルージやソウタ、そしてロンの絵までもが、しかも微妙な雰囲気を漂わせたイラストが多数描かれているのだ。ソウタの絵とは完全に印象が違うが、それはそれでよく描けている。しかも、意外にもガタイに似合わぬ柔らかい線で、少々丸みを帯び、可愛らしくデフォルメされて描かれているのである。

「何か、今、ものすごーく、悪いモノを見た気がしたわ……」
 
(となると、当然、アタシのことも描いているわけよね?)

 一瞬、ごく軽い吐き気を覚えたが、興味半分、恐怖半分で1冊目、2冊目とスケッチブックをめくると、1ページだけ、僅かに1ページだけ、描かれていた。

「何よ……このアタシの扱いの悪さは!」

 しかも、そこに描かれている、レ・ミィ姫の姿は、まさに今、ここズーリでも闇で流布されている「恐怖の丸焼き料理人」のイメージそのもの。片手に肉の塊、もう片方の手に肉切り包丁、空腹なのかヨダレを垂らし、あまつさえ、その眼は四白眼――つまり、完全にイっちゃってる状態なのである。
 第三者から見れば、それはそれで「カワイく」描けてはいるのだが……モデルというか標的となったミィにしてみれば、たまったものではない。

 更に事態は追い討ちをかける。
 幸か不幸か日記まで出てきてしまったのである。
 最大で10日くらい飛んでいたりする日記というのもガラガらしいといえばガラガらしいのだが、コトナ関連9割の影で、ささやかながらもミィの事が言及されていたりするのだが、そこには「今日も丸焼き」、「お転婆」なんていうのは、まだカワイイ方で、「あれが後継ぎだとしたら、ラ・カン、そしてキダ藩も将来、大変だ」などという記述すらあったものだから、一気にミィの血圧がレッドゾーンに突入する。

「……あの筋肉馬鹿、殺して良いよね?」

 知らぬ間に殺意を抱かれてしまうあたりに、雷鳴のガラガという男の不幸がある。



(ラ・カンの意図するところは、分からないでもないんだけどな)

 会議室につくと、ガラガは一つタメイキをついた。

 引き戸にノックも少々妙な感じだが、一応、軽く叩く。

「ガラガだ。ラ・カン、入るぞ」

 ガラッと戸を開けると、そこにはラ・カンとキダの重臣、そしてリンナが居た。
 そして、心なしか重臣達とリンナの視線が、突き刺さるように感じる。いや、それどころか、リンナの眼は「人殺しの眼」になりかかっている。

(こりゃあ、参ったな)

 困惑は隠せないガラガだが、なるようになるしかないとばかりに、ラ・カンの真正面、リンナの隣にどっかりと腰を下ろす。

「話は、ミィ様にさわりの部分だけ聞いてはいるんだが、で――?」

 話そのものは難しいものではなく、恐らくは結論も最初から出ているハズなのだ。
 しかし、このなんとも奇妙な殺気に包まれた空間が、ガラガにとっては、この上なく息苦しい感じを与えていた。

「つまりだ、事は緊急性を要する上に、人員を多くは割けないから、とりあえず外様の俺とリンナで行けということか?」

 このセリフには、軽い皮肉が込められている。

「ああ、スマンが、そういうことだ――まず、デットリーコングと、改装したレインボージャークウインドβで先発隊を組み、拠点を確認、索敵し、可能な限り二機で、これを叩く。当然、後発でセイジュウロウを中心に、その後の復興作業も考えて、ア・カン以下も送り込む」

「可能な限り、か……ラ・カンにしては、少々粗っぽい策だな。つまり、アレだ、こういう手を打たなければならないほど事態が悪化してしまった、と」

 といいながら、ガラガが周囲を見回すと、キダ藩家臣、とりわけ外部情報収集を担当する者達は、一斉に目を伏せてしまった。

(これが、キダ藩という巨大官僚組織の限界なのかも知れないな)

 と、どちらかといえば無頼の人生を送ってきたガラガは思う。

「で、いつから行動を起こすつもりなんだ?藩主自ら、そこまで云うからには、ある程度の準備が出来ているんだろうな?」

 こういう時のガラガは行動も早いが、なかなかどうして、こういう場面になると、普段からは想像もつかないくらい頭の回転も速くなる。

「オレはいつでもOKだぜ、何なら今からでも行くぞ。なんせこちとら、ここのところ、身体もなまり気味だからな」

「そこまで云ってくれるとは、実に頼もしい」
 
 何を隠そう、ラ・カンもまた、ガラガのそういう性格は折込済みなのである。

「出発は明朝だ。早速これから、作戦の詳細を練ろう」



 いざ、作戦の詳細を練る段になると、なんのかんのでまとまりが良く、話がどんどん進んでいくのが、旧ジーン討伐軍のメンバーの特性である。良くも悪くも「戦慣れ」している、ということであろう。
 リンナにとっては、やや面白くない状況ではあるが、これは致し方あるまい。
 


「しかし、何せ、戦力は、実質オレのデッドリーコング1機のみだからな、こいつはちょいと骨だぜ」

「それはどういう意味かしら?」

「どういう意味もこういう意味も、おめえはゾイドに関しちゃ、まだまだシロウトだしな」

「ふうん、この私を一体、誰だと思って、そんな口を聞いているのかしら?」

(ゴホゴホ)

 険悪なムードになりそうなところで、咳払いをしてみせるラ・カン。

 なるほど気の強いところ、妙に負けず嫌いなところは、さすがあのコトナ・エレガンスの双子の妹だ、と会議の同席者達は思う。

「しかも、今回の作戦は、限られた予算内で行わなければならない」

「つまり、大部隊を動員できない上に、リーオの弾も存分にブッ放せる状況じゃあないわけか」

「勘定吟味役のタッ・カが最近、厳しくてのう」

 ダ・ジンが苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。

「ああ、あいつか……」

 と、いって、ガラガは、その顔を浮かべ、苦笑いを浮かべた。
 勘定吟味役タッ・カ。
 要は、新生キダ藩の「金庫番」とも云える存在である。
 彼の家は元からキダ藩家臣の血筋を引くものではなく、農民の出身。先々代藩主の時代に導入した公募試験により、登用された人物である。登用された当初から、その才能を特に財政面について発揮しており、早い段階から異例の出世を遂げていたが、あまりに切れ過ぎた故に、ダ・ジンら古くからの重臣、ティ・ゼのような武官には少々疎まれていた。
 さらにディガルド側にも危険人物としてマークされていた(一説によるとキダ藩関係者では、ラ・カンの次にランクされていたという話もある)ようで、キダ藩が崩壊した際には、その命まで狙われ、藩領内から命からがらに脱出、各地を放浪していた。

 キダの地の復興に向けて、何かと物入りな状況下においては、ある意味で非常に頼もしい存在ではあるのだが、家臣団の中での評判は、相変わらず芳しくは無い。
 更に云えば、ここだけの話、あのルージ・ファミロンが、彼に薫陶を受けているという話もあり、そのことが一層、評判を悪くしているようだ。



「それにしても、ディガルドの残党連中も、よくまあ、このカツランなんて街に目をつけたもんだな」

「だからこそ――なのだろう」

 今や藩の武術、軍事関連の指南役の責を担っているセイジュウロウの分析は、あくまでも冷静だ。

「このカツランの街は、トラフやズーリに比べれば、規模は小さいですが、山や森、川などの地形を利用したいわば城塞都市です。ディガルドが事を起こす前は、特にコレといった産業はありませんが、保養地として名高く、またカジノなども盛んで歓楽街は相当賑わっていたようです。一方で、武器弾薬の市場取引も活発で、故にディガルド軍にとっては重要拠点の一つとなっていました。また、戦時においても色々と黒い影も蠢いていたという話もあります」

「ほう、カジノに歓楽街か……」

 淡々と街についてのデータを語る家臣の言葉の中に、カジノ、歓楽街というキーワードを耳にして、若干色めき立つガラガ。やはり、侠客の血が騒ぐのか?
 しかし、隣に座っているリンナの心底蔑むような視線の前に、表情を元に戻さざるを得ない。

「おや、ところで、ミィはどうした?こういうところには、必ず顔を出したがるハズなんだが……?」

 あまりにいたたまれないので、シリアスな会議の最中、話題を変えてみる。

「いや、私も一応、呼んだのだが、『今の私には乗るゾイドが無いし、他にやることがあるから――』というので――」

 ラ・カンにとっても、そのミィの言葉と行動は、意外であったようで、僅かに困惑していることが伺える。

「ふうむ、ミィにしては珍しいな」

「確かに云われてみれば」

 妙な所で意見が一致するリンナとガラガ。というよりは、その場にいる全員が同意見であったののは云うまでもない。

「何か波乱の予感がするな――」

 小さな声でつぶやくセイジュウロウの予感は、あまりにも正確なものであった。



 結論から言うと、翌朝出発、翌々日の夜に始まった残党掃討作戦は、思いの外、あっさりと終了してしまった。

 バイオラプターの大群を前に苦戦を強いられかけたものの、夜の闇に紛れレインボージャークウインドβからカツランの街の中心部、ディガルド軍の残党が居ると目される場所に投下されたデットリーコングは、ここのところの鬱憤を晴らすかのように八面六臂の大暴れ。その猛攻を前に、敵軍は、あっという間に瓦解してしまった(このことについては、後日、ガラガがまるで、初期の反乱軍を見ているようで、少しイヤな気持ちにはなった」と語っている)。

 最後に残ったのは、ゲリラのリーダー格と目される人物が操縦する黒いバイオラプターが4機ほど。
 こいつらをボッコボコにして、気分爽快といきたいガラガだったが、さすがにここは理性が押し留める。というわけで、一応の説得は試みる。

「おーい、ディガルドの残党ども、無駄な抵抗は止めて投降したらどうだ?」

「うるさいっ!」

「我らカツラン四天王をナメてもらっては困る!」

「この雷鳴のガラガ様が、こうして説得しているんだから、もう少し聞く耳を持たないか?なあ、お前らにも少しは言い分はあるだろうよ?今のうちに投降しておけば、あのラ・カンだ。そう悪いことにはならんと思うぞ」

「何、雷鳴のガラガ?」

 その名を聞いて、彼らの反応が少し変わったのが、回線経由からも感じ取れた。

(おお、雷鳴のガラガの名に、恐れをなしたか?)

 思わずほくそ笑むガラガだったが、物事、そうは問屋が卸さなかったりする。

「ほう、こともあろうに神都ディグに攻め込んだ愚劣なる男を倒す機会に、ここで恵まれるとは、何と云う僥倖」

「え?!」

「ここで会ったが百年目、潔く我らカツラン四天王の前に散れ!」

「おいおいおいおいおいおいおい、そーいう展開アリか?」

「雷鳴のガラガ、その首、神帝ジーン様の下に捧げてくれる!覚悟しろ!!」

「ウッソだろぉ、おい……」

 かくして、後の世に語り継がれる「カツランの決闘」が始まろうとしていた、ハズだったのだが……。

 突然、影が横切ったかと思った刹那、黒ラプターのうち1機の首が飛んだ。

「さっさと片付ければ良いものを、つまらない寸劇なんてやっている場合じゃないでしょ?」

「り、リンナ?!」

「ちぃ、もう1機、空に居ることを忘れていたわっ!」

 このあたり、カツラン四天王は、相当なオマヌケである。

「忘れていたなら冥土への土産に教えてあげる、我が名はリンナ、アイアンロックが生んだ美しき戦士!浮世の生き血を啜る醜い鬼ども、臆さぬならば、かかってこいっ!!」

 何だかんだでハイテンションなリンナ。
 彼女も彼女でアイアンロックを出てからというもの、かなりのストレスが溜まっていたのだ。ついでにいうと、ガラガと行動を共にしている現在の状況もストレスを増幅させている。
 つまりのところ、軽いバーサークモードに突入していたのである。

「ホラホラ、ボサっとしていると、アンタも叩ッ切るわよっ!」

「ひいっ!」

 レインボージャークウインドβは、再び急降下すると更に2機を破壊した。
 
 さすがに大勢不利と見た残りの1機が、逃亡を図る。だが――

「おーい、オレの首をジーンの墓前に捧げるんじゃなかったのか?」

 そこには、デットリーコングが既に回り込んでいた。

「あ……」

 最後は一撃であった。



「ふぐぐぐぐぐぐーっ!」
 
 哀れ、縛られ猿轡まで噛まされたカツラン四天王。

「悪く思うなよ、特に旧ディガルド兵に関しては、生かしてズーリまで連れて来い、っていうのがラ・カンの指令だからな。自決されちゃ困るんだよ」

「しかし、口の割には、ホント骨が無い連中だったわね」

 本人達の目の前で冷酷に言い放つリンナ。

「お前なあ……」

「さて、セイジュウロウやア・カン達が来るまで、まだ何日かかかるからな、それまで出来ることはやっておかないと。まずは『解放』か……」

「『解放』?」

「そう、何機残っているかは知らないが、バイオラプターから魂を解放してやらないと、な……」



「私も決して他人のことを云えた義理じゃないけれど、人間って、ヒドいことするものね……」

「ああ……ひょっとしたら、バイオゾイドが、この地上から居なくなるまで、俺たちの戦いは終わらないのかも知れないな」

 カツランの愚連隊達のアジトの格納庫に残っていたバイオラプターからの「解放」を終えて、早朝の街にたたずむガラガとリンナ。あまりにも重い過去の戦いの真実と、今そこにある現実が、いつになくガラガをシリアスにする。

「一休みしたら、資材の搬入して、壊れた道や建物の修復作業にかかるぞ」

「了解」



 ――とまあ、このあたりで話を終えておけばキレイなのだが、そうはいかないのが、このSSなのである(笑)。
 
 後発部隊がカツランにつくまでの間、ガラガとリンナは、大小様々な衝突(大抵、最後はリンナが物理的な力でガラガを屈服させる)を繰り返しながら、建物の解体や、搬入された資材を使って基礎工事を始めたり、着々と復興作業を進めていた。
 なお、その間、ガラガがこっそりと再開されたカジノや、ひっそりと営業再開されたオネエチャンがいる夜の店に出入りして、そこそこにイイ思いをしていたのは、ナイショの話である。



 さて、4日ほど経過した頃、ズーリからの復興部隊が、カツランに到着した。
 しかし、そこには当初伝えられていたセイジュウロウの新ソウルタイガー(仮称)の姿は無く、代わりに現在はソウタ用になっている「量産型」ランスタッグがそこにいた。

(何故、ソウタ?)

 その謎は、スグに解けた。

「ハーイ、ガラガにリンナ!」

「ミィ!?」

 タンデム状態だったランスタッグのコクピットから出てきて満面の笑みをたたえるミィの姿を見て、ガラガはイヤな予感がした。いや、既に頭の中では、本能が「ニゲロニゲロニゲロ……」とささやいていた。

「ど、ど、どうしたんだ、ミィ、突然に?」

「だって、ズーリに居ても退屈でしょうがないから、銀ちゃんのランスタッグに乗って来ちゃった」

 あくまでも笑顔のレ・ミィ。

「さあ、頑張って復興作業に当たるわよお〜……と、そ・の・ま・え・に」

 ガラガは、踵を返して逃亡を図る。
 アテは無い。とにかく「どこまででも逃げてやる!」つもりだった。

「待ちなさい!どこへ行くつもり?人の話は最後まで聞かないと、ダメでしょう?」

 あくまでも諭す口調だが、そこにはそこはかとない殺気が込められている。

「で、そ、そ、その話って、何だ?」

「えっとお、ガラガ、このスケブと日記なんだけど……」

 レ・ミィはカバンの中から、ガラガの部屋に会ったスケッチブックと日記を取り出す。

「ああああああああああああ!?そ、それは――!?」

「随分と私のこと、好き勝手に書いたり描いてくれているみたいで……」

「お、おまえ、普通にマナー違反だろ、それは?!」

「やかましいっ!」

 顔は笑っているが、眼は完全にプッツン状態を示している。

「乙女のローキック!」

 レ・ミィの右脚が、ムチのようにガラガの左大腿部を襲う。

「ギャア!」

「乙女のローキック!ローキック!ローキック!」

「ぐわ!ギャ!ぐわっ!」

「乙女の真空飛び膝蹴り!」

 この強烈な一撃で、ガラガはたまらずダウン!

「リ、リンナ、頼む助けて……」

「身から出たサビね。試練だと思って耐えなさい」

「そ、そんなあ」

 更にレ・ミィは、カバンの中から何かを取り出す。

「♪ぱらぱぱっぱぱー♪ガーンタッカァ〜ー!」

「そ、そ、そそ、それは、いや、待て、それは柱などに建築用資材を打ち付ける為の道具であって、決して――」

「コーノ、バーカチンガー!」

 バツンッ!

「ギエアアアアアア!」



−了−


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